食道がん
食道がんとは
食道がんは、のどから胃へ食べ物を運ぶ「食道」に発生する悪性腫瘍です。食道の壁は非常に薄く、周囲に気管や肺、大動脈などの重要な臓器が近接しているため、進行すると周囲臓器へ広がりやすい特徴があります。
食道がんは早期では症状がほとんどないため、発見が遅れやすい一方で、早期に見つかれば内視鏡で治療できる可能性がある重要ながんです。
日本における食道がんは、男性に多いがんで男女比はおよそ6~7:1とされています。
喫煙や飲酒との関連が強いのが特徴です。
食道がんの原因・リスク因子
食道がんには明確なリスク因子が知られています。
主なリスク因子
- 喫煙
- 飲酒(特に多量飲酒)
- 喫煙+飲酒の併用
- 熱い飲食物の習慣
- 栄養不足(ビタミン不足など)
- 胃食道逆流症(GERD)
- バレット食道(日本では比較的稀、欧米で増加傾向)
特に日本ではアルコール分解酵素(ALDH2)の活性が低い方では、飲酒による発がんリスクが高いことが知られています。
アルコール分解酵素(ALDH2)の活性が低い方の特徴
- 少量の飲酒ですぐに顔が赤くなる
- 動悸・吐き気・頭痛が出やすい
- お酒に弱い(飲めない体質)
このような体質の方は、飲酒による食道がんのリスクが高いことが知られています。
食道がんの症状
食道がんは早期ではほぼ無症状です。
そのため、検診や消化器症状の精査として行った胃カメラ(上部消化管内視鏡)検査で偶然発見されることも少なくありません。
病状の進行に伴い、以下のような症状がみられることがあります。
比較的早い段階でみられる症状
- のどの違和感
- 食べ物がしみる感じ
- 軽い嚥下違和感
さらに進行するとみられる症状
- 食べ物がつかえる(嚥下障害)
- 固形物から次第に液体も飲み込みにくくなる
- 体重減少
- 胸や背中の痛み
- 声のかすれ(反回神経麻痺)
- 咳や誤嚥
特に「パンや肉などの固形物が飲み込みにくい」という症状は、食道がんを疑う重要なサインです。
食道がんの検査
検査には大きく2つの目的があります。
- 食道がんの発見
- 発見した食道がんの状態(進行度)を評価
胃カメラ(上部消化管内視鏡)
食道がんの診断において最も重要な検査です。
内視鏡を用いて食道の粘膜を直接観察することで、わずかな色調変化や凹凸などの早期がんを発見することが可能です。疑わしい病変があれば、その場で組織を採取(生検)し、確定診断を行います。色素内視鏡検査といって,食道にヨウ素液(ルゴール)を塗布して検査する場合があります。この液を使うとがんの範囲をより確実に捉えることができ,とくに早期がんの発見には非常に有用です。
また、進行した場合でも、病変の部位・広がり・狭窄の程度を直接評価できるため、診断および治療方針の決定に不可欠な検査です。 さらに、出血や通過障害の状態評価、必要に応じた処置(止血やステント留置など)にも役立ちます。
➡ 早期発見から進行がんの評価まで、すべての段階で必要となる基本かつ最重要の検査です。
食道造影検査(バリウム検査)
造影剤(バリウム)を飲んでレントゲン撮影を行い、食道の形や通過状態を評価する検査です。
- 食道がんのある位置・形態
- がんによる狭窄(細くなっている部分)の程度
などを確認することができます。
内視鏡と比べると早期がんの発見能力は劣りますが、食道全体の形態や通過障害の評価に有用で、治療前の評価として行われることの多い検査です。
採血検査
採血では、全身状態の評価や治療方針の検討に必要な情報を得ます。
- 貧血の有無
- 栄養状態
- 肝機能・腎機能
また、腫瘍マーカー(SCCなど)を測定することもありますが、食道がんの診断においては補助的な役割にとどまります。
画像検査
これらの画像検査は、がんの広がりを評価し、治療内容を決めるために重要な検査です。
CT検査
- 食道周囲への広がり(気管や大動脈などに及んでいないか)
- リンパ節転移
- 肺・肝臓などへの転移
を確認します。
PET検査
がん細胞の活動性を利用して、全身の転移や再発を評価します。
CTでは判断が難しい病変の検出に有用です。
これらの検査の結果を踏まえて、手術・内視鏡・化学療法など最適な治療方針を決定します。また、食道がん(特に扁平上皮がん)は、頭頸部がんや胃がんなど他のがんと同時に発生することがあり、必要に応じて他臓器の検査も行われます。
食道がんの種類
食道がんは、主に以下の2つのタイプに分けられます。
- 扁平上皮がん
- 腺がん
それぞれ発生する部位や原因、特徴が異なります。
扁平上皮がん
日本で多いタイプ(約90%以上)の食道がんです。
食道の内側を覆う「扁平上皮」から発生し、主に胸部食道にできやすいのが特徴です。
■ 主な原因・リスク因子
- 喫煙
- 飲酒(特に多量飲酒)
- 喫煙と飲酒の併用
- アルコールに弱い体質(顔が赤くなる方)
これらの影響を長期間受けることで発生リスクが高まります。
■ 特徴
- 日本人に多い
- 頭頸部がんとの重複がみられることがある
- 多発しやすい(複数箇所にできることがある)
腺がん
腺がんは、食道の下部に発生することが多いがんです。日本では比較的少ないですが、近年増加傾向にあります。
■ 主な原因・リスク因子
- 胃酸の逆流(逆流性食道炎)
- バレット食道(食道の粘膜が変化した状態)
- 肥満
胃酸による慢性的な刺激により、食道の粘膜が変化し、そこからがんが発生します。
■ 特徴
- 食道の下部(胃との境界付近)に多い
- 欧米で多く、日本でも増加傾向
- 逆流症状(胸やけ)との関連が強い
➡ 長期間の胸やけや逆流症状がある方は注意が必要です。
食道がんのステージとは?
ステージとは、がんの進行の程度を示す指標です。
食道がんがどこまで広がっているのかを表し、治療方法を決めるうえで重要な情報になります。
食道がんは、がんの広がり(進行度)をもとにステージI〜IVの4段階に分類されます。
食道は周囲に気管や大動脈などの重要な臓器が隣接しているため、がんが進行すると周囲へ広がりやすい特徴があります。
一般に、ステージが進むほど治療は複雑になり、生存率は低下します。
食道がんはどのように進行するのか?
食道がんは、主に次の3つの方向に広がっていきます。
- 食道の壁の深さ方向への広がり(深達度)
- リンパ節への広がり (リンパ節転移)
- 他の臓器への広がり(遠隔転移)
これらの広がり方の組み合わせによってステージが決まり、治療方針が選択されます。
それぞれについて説明します。
深達度
食道がんは、食道のいちばん内側にある「粘膜」から発生し、時間の経過とともに粘膜の下(粘膜下層)、筋肉の層(筋層)、さらに外側へと徐々に深く広がっていきます。
この「がんがどのくらいの深さまで入り込んでいるか(深達度)」は、治療方法を選ぶうえでとても重要なポイントです。
一般に、粘膜内にとどまる早期の段階であれば内視鏡治療が可能な場合があります。
一方で、より深い層まで進行するとリンパ節転移のリスクが高くなり、手術や抗がん剤治療、放射線治療が必要になることがあります。また、がんが深くなるほど、周囲やリンパ節へ広がる可能性が高くなります。

リンパ節転移
食道の周囲にはリンパ管が多く存在しており、がん細胞はこれを通ってリンパ節へ広がることがあります。
食道がんの特徴として、食道はリンパの流れが豊富なため、比較的早い段階からリンパ節転移が起こりやすく、首・胸・お腹といった広い範囲のリンパ節に転移する可能性があります。
リンパ節転移の有無や広がりは、治療方法を決めるうえで重要であり、手術の範囲や、抗がん剤・放射線治療の必要性の判断に影響します。

遠隔転移
がんが血液の流れに乗って、食道から離れた臓器に広がることを遠隔転移といいます。
食道がんでは主に以下の臓器に転移がみられます。
- 肺
- 肝臓
- 骨
遠隔転移がある場合は、手術による根治が難しくなることが多く、抗がん剤治療など全身治療が中心となります。

ステージ分類と治療の目安
食道がんは、進行度に応じてステージI〜IVに分類され、それぞれ治療方法や予後が異なります。

ステージ0(上皮内がん・ごく早期)
ステージ0は、がんが食道の最も内側にある粘膜の表面にとどまっている状態です。
周囲の組織やリンパ節、他の臓器への広がりは認めません。
この段階では自覚症状がほとんどなく、検診や胃カメラで偶然発見されることが多いのが特徴です。
■ 主な治療
- 内視鏡治療(ESDなど)
体への負担が少なく、食道を温存した治療が可能です。
■ 予後(5年生存率)
90%以上と非常に良好で、適切に治療すれば根治が期待できます。
➡ 早期発見ができれば、負担の少ない治療で治すことが可能ながんです。
ステージI(早期がん)
- がんが食道の浅い層にとどまる
- リンパ節転移はない、またはごく限られる
■ 主な治療
- 内視鏡治療(ESDなど)
- 手術
■ 5年生存率
約70〜90%
ステージII〜III(局所進行がん)
- がんが深い層まで進行
- リンパ節転移を伴うことが多い
■ 主な治療
- 手術+抗がん剤治療
- 化学放射線療法
■ 5年生存率
約30〜60%
ステージIV(進行がん・転移あり)
- 他の臓器(肺・肝臓・骨など)に転移
■ 主な治療
- 抗がん剤治療
- 免疫療法
- 緩和治療
■ 5年生存率
約10%以下
上記はステージに準じた概ねの目安です。治療法はステージだけで一律に決まるものではなく、がんの部位・深さ・広がりに加え、年齢、体力、併存疾患、患者さんの希望などを総合的に考慮して決定されます。
食道がんの治療
食道がんの治療方法は、がんのステージや全身状態に応じて選択されます。
主な治療には、内視鏡治療、手術治療、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療があります。
進行した食道がんでは、これらの治療を単独で行うだけでなく、複数を組み合わせて行うこともあります。
内視鏡治療
ごく早期の食道がんでは、**内視鏡による切除(ESDなど)**が行われます。
内視鏡治療は、口から内視鏡を挿入し、食道の内側からがんを切除する方法です。
■ 特徴
- 食道を切らずに治療できる
- 身体への負担が少ない
- 入院期間が比較的短い
一定の条件を満たす早期がんでは、内視鏡治療のみで完治が期待できます。
■ 適応となる主な条件
- がんが粘膜内にとどまる
- リンパ節転移の可能性が低い
- 病変の大きさや範囲が一定以内
※すべての早期がんが対象になるわけではなく、個々の状態に応じて判断されます。
手術治療
内視鏡治療の適応とならない場合や、進行した食道がんでは手術が行われます。
手術では、がんのある食道の一部または大部分を切除し、周囲のリンパ節も同時に切除します(リンパ節郭清)。
■ 手術の特徴
- 食道を切除し、胃や腸を用いて食べ物の通り道を再建する
- 頸部・胸部・腹部にまたがる大きな手術になることがある
- 根治を目指す治療

近年では、体への負担を軽減するために胸腔鏡・腹腔鏡手術(低侵襲手術)やロボット手術が行われることも増えています。
化学療法(抗がん剤治療)
抗がん剤を用いてがん細胞の増殖を抑える治療です。
食道がんでは、さまざまな目的で行われます。
■ 主な目的
- 術前化学療法
手術前にがんを小さくする目的 - 術後補助化学療法
再発を防ぐ目的 - 進行・再発がんの治療
がんの進行を抑える・症状を緩和する
■ 使用される主な薬剤
- 抗がん剤
- 分子標的薬
- 免疫チェックポイント阻害薬
患者さんの状態やがんの性質に応じて、単剤または複数の薬を組み合わせて使用します。
放射線治療
放射線をがんに照射し、がん細胞を破壊する治療です。
■ 特徴
- 手術を行わずに治療できる場合がある
- 化学療法と併用(化学放射線療法)されることが多い
- 痛みや嚥下障害の緩和にも有効
■ 主な適応
- 手術が難しい場合
- 手術と同等の治療効果を狙う場合
- 症状緩和(緩和照射)
食道がんの予防
食道がんを予防するためには、発がんのリスクを高める要因を減らし、早期発見につなげることが重要です。
禁煙と節酒
食道がんの予防で最も重要なのは、喫煙と飲酒の見直しです。
- 喫煙は食道の粘膜に直接ダメージを与えます
- アルコールは分解される過程で発がん物質(アセトアルデヒド)を生じます
特に「顔が赤くなる体質(お酒に弱い方)」では、この物質が体内に残りやすく、食道がんのリスクが高くなることが知られています。禁煙と節酒は、最も効果的な予防方法です。
熱い飲食物を控える
非常に熱い飲み物や食べ物を日常的に摂取すると、食道の粘膜に慢性的な刺激が加わり、がんのリスクが高まる可能性があります。
- 熱いお茶やスープは少し冷ましてから飲む
- 刺激の強い食習慣を見直す
などの工夫が大切です。
胃食道逆流症の管理
胃酸の逆流が続くと、食道の粘膜が炎症を起こし、長期間にわたるとがんのリスクにつながることがあります。
- 胸やけや呑酸が続く場合は早めに受診
- 必要に応じて薬物治療を行う
逆流性食道炎の適切な治療は、特に腺がんの予防につながります。
定期的な内視鏡検査
食道がんは早期では症状がほとんどありません。
そのため、症状が出る前に検査で発見することが重要です。
特に以下の方は定期的な検査をおすすめします。
- 喫煙・飲酒習慣がある
- 顔が赤くなる体質(お酒に弱い)
- 胸やけなど逆流症状がある
胃カメラ検査が、早期発見・早期治療につながります。
まとめ
食道がんは、喫煙や飲酒などの生活習慣と深く関わるがんであり、早期にはほとんど症状がありません。
そのため、
- 食べ物がつかえる
- のどの違和感が続く
- 体重減少
といった症状がある場合には、すでに進行していることもあります。
一方で、早期の段階で発見できれば、内視鏡による体への負担の少ない治療で完治が期待できるがんでもあります。
食道がんの対策として重要なのは
- 禁煙・節酒などの生活習慣の見直し
- 逆流性食道炎の適切な治療
- 定期的な胃カメラ検査
です。
特に喫煙・飲酒習慣のある方や、お酒で顔が赤くなる体質の方は、食道がんのリスクが高いことが知られています。
症状がなくても定期的に検査を受けることが、早期発見・早期治療につながります。
当院では、苦痛の少ない胃カメラ検査を行っており、食道がんの早期発見に努めています。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。
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記事監修医紹介
小泉 岐博
(こいずみ みちひろ / Michihiro Koizumi)
経歴
神奈川県藤沢市生まれ。
1995年、日本医科大学医学部卒業。医学博士。
大学付属病院および関連病院において、消化器疾患の診療・検査・手術に従事。専門は大腸がん。
2020年より西新井大腸肛門科に勤務し、肛門疾患の診療および手術手技の研鑽を積む。
2023年、北千住大腸肛門クリニック院長に就任。
現在は、大腸・胃の内視鏡検査および治療、肛門疾患の診療と日帰り手術、がん手術後のフォローアップを中心に診療を行っています。
「患者さんが何に困っているのか」を大切にし、患者さん一人ひとりにとって何が最適な治療なのかをともに考えることを診療理念としています。
略歴・資格
- 日本医科大学付属病院 兼任講師
- 日本外科学会 専門医・指導医
- 日本消化器外科学会 専門医・指導医
- 日本大腸肛門病学会 専門医・指導医・評議員
- 日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・指導医
- がん治療認定医